今回は久しぶりの読書メモです。
タイトルから穏やかでない感じが出てしまっていますが、シリアルキラー=連続殺人鬼を題材にした小説です。
著者:バリー・ライガ/訳者:満園 真木/創元推理文庫
1部 さよなら、シリアルキラー<I HUNT KILLERS>
2部 殺人者たちの王<GAME>
3部 ラスト・ウィンター・マーダー<BLOOD OF MY BLOOD>
ジャンルとしては、青春ミステリーということで、
アメリカの田舎町<ロボスノット>を舞台に、高校生の男の子<ジャスパー・デント(ジャズ)>を主人公とした小説です。
彼の父親は、21世紀最悪と言われる連続殺人鬼として刑務所に入っています。
サイコパスと言われる人格を持つ父親に育てられるという特異な環境で育ったジャズは、常に自分の生い立ちと記憶の断片に苦しめられています。
母親はある日突然いなくなり、父親はジャズを熱心に教育していました。いわゆる、連続殺人鬼による、連続殺人鬼になるための英才教育です。
1部では、平和な田舎町に衝撃的な事件が起きます。ジャズはすぐにそれが連続殺人だと確信しますが、保安官に取り合ってもらえません。連続殺人鬼に育てられてきた経験と知識で独自の捜査を進めていく中で、浮かび上がってくる犯人の目的とは…
2部は、1部の事件が終わってからわずか2ヶ月後。ジャズの元に、ニューヨーク市警の刑事が訪れます。連続殺人鬼の思考がわかるジャズの能力をかって、捜査協力を求めてきたのです。気乗りしないまま捜査に同行するジャズに突きつけられたのは、被害者の遺体に彫られた”ゲームへようこそ ジャスパー”というメッセージでした。同時期に恋人のコニーはジャズの生い立ちに関わるものを見つけます。ジャズには内緒で彼女も独自に行動を開始していきますが、事態は彼女の予想を上回る展開へ…
3部は、2部からの続きになっていますので、内容は触れないでおきます。
シリアルキラーが題材という時点で嫌厭(けんえん)してしまう人もいるかもしれませんが、話のテンポが良く、個性的な登場人物の魅力もあり、一気に読める作品だと思います。(描写として少しグロいシーンはあります)
シリアルキラー、サイコパスという、パワーワードが頻繁に出てくる中、描かれているのは、そんな特異な環境で育った少年の苦悩です。
断片的な幼少期の記憶、父親が連続殺人鬼だと知っていながら止められなかった過去、そして自分にも同じ血が流れ、連続殺人鬼の思考が植え付けられていることから、なにかをきっかけにそちらに引きずりこまれてしまうのではないかという恐怖。
サイコパスの特徴として、自分の利益になるように他人を操る、平気で嘘をつくというものがあります。
人間観察能力に優れていて、それが他者への共感になることはなく、それによって相手の心理を読み、思い通りに相手の行動を導いていきます。得てして、頭の回転が速いのです。
そういった特徴の父親を見ながら育ったジャズは、苦悩を抱えているものの、引きこもって隠れているようなタイプではありません。
しかし同時に、自分を正常な位置に保つために「人間は本物だ。人間は大事だ」という言葉をお守りのように唱えています。
そして、幼馴染で親友であるハウイーは血友病(出血部位の血液を固めるために必要な、「血液凝固因子」というタンパク質の一部が生まれつき不足している疾患)であり、恋人のコニーは黒人という、マイノリティーとして描かれていることも特徴的です。社会的に弱者であったり、権力に対して弱い存在とされている彼らが自分を受けいれてくれること、彼らを大事にすることで、ジャズの精神的支え・自分が暴走してしまわないためのストッパーであると考えています。
物語の中でも触れられますが、サイコパスの人格は遺伝だという研究結果があります。
ジャズの場合は、父親からの遺伝があり、さらに後天的にもその思考・行動を植え付けられ、サイコパスであり、ソシオパスである要因を多分に抱えているわけです。
そういったバッググラウンドを持ちながら、「自分とは」というアイデンティティについて常に苦悩し続けながら、10代の少年が背負うには酷なほど様々な体験を通して、自分の運命に立ち向かっていく、そんな話です。
実は、3部作の前の段階の話として、ジャズ、ハウイー、コニー、保安官の裏話のような短編を集めたものが、番外編として出ています。
番外編 運のいい日<LUCKY DAY>
この、それぞれの視点で書かれた話は、3部作を読んだ後ならキャラクターへの愛着もあってちょっと微笑ましく読めるのではないかと思います。
過去のその時点で、彼らがどんな風に考えていたのか、大人の余裕を見せていた保安官;G.ウイリアムスの弱さなんかも見られる、このシリーズのファンになった人のためのスピンオフ作だと思います。
もう連続殺人は起こって欲しくないけれど、彼らの物語はまだ読みたいなぁと思う、そんな小説でした。