今回は、「帝国ホテル建築物語」をご紹介します。
インテリアへの興味から、フランク・ロイド・ライトという著名な建築家がいることを知った私。
偶然にも、昨年の夏の神戸観光時に、ライト建築のヨドコウ迎賓館を観ており、
年末には、仕事で帝国ホテルを訪れることがあったりと、フランク・ロイド・ライトにアンテナが立っている状態でした。
なので、本屋さんで見かけて即買い。
本屋さんに行くと、こういう出会いがあるので、やっぱり「本屋さんがあったら入る」が正解です。
ささっとまとめ
インテリアと小説好きにはたまらない、史実に基づいた物語。あっという間に読んでしまいました。
「帝国ホテルの建築=フランク・ロイド・ライトの建築」とだけしか、
インテリアコーディネーターの勉強をしている時は捉えていませんでした。
日本の大都会での建築なので、当然ですが沢山の日本人が関わっています。
ライトの影(影という表現が適切かはわかりませんが)で、本当に多くの苦労をしながら新館建築に携わった、その代表ともいえる人物が 林愛作 です。
ここからは、ちょっとネタバレを含むあれこれを、敬称略で書いていきます。
林愛作というDark Horse
Dark Horseとは、元々は競馬用語で「番狂わせを起こす馬」を指すそうですが、
慣用句として、下記の使われ方をします。
あまり知られていなかった人物や物が、複数のライバルを含む競争などの特定の状況下で、突如として存在を示すこと、または、理論上の確率は低いものの、成功する可能性を秘めた競技者を指す
Wikipediaより
林愛作の経歴を見ると、かなり特殊な人で、ホテル業界での経験も、経営の経験もありません。
重複している部分もありますが、簡単に色分けしながら経歴をまとめると…
黄色は経験や努力などの頑張り、青がぶつかってきた壁・障害、赤は転機・チャンスとなった瞬間
群馬県の裕福な農家で育つ。勉強ができる秀才。
→家が新規事業で失敗し、横浜の親戚の元へ奉公に出される。
→読み書き・暗算が得意で重宝される。英語の必要性を感じ勉強する。
→頑張りが評価され、煙草市場のリサーチの通訳として渡米。
→後見人がいないため、現地校に入学できず、職も得られない。
→サンフランシスコの日本人経営の雑貨店で住み込みで働く。
→顧客の老婦人に見込まれ、東部の寄宿高校に入学。
→奨学金を取得し、大学へ進学。
→就職活動難航。人種の壁を感じる。
→ニューヨークで古美術商の山中商会のお店を見ていたところ、声をかけられ就職。
→フランク・ロイド・ライトがお店を訪れ知り合いになる。
→大倉喜八郎に見込まれ、帝国ホテル支配人に抜擢される。
本書でも林愛作が葛藤するシーンで描かれますが、かなり運が良かった人のように見えます。
確かに、何かに行き詰っている時に、必ず手を差し伸べてくれる人がいるのですが、
その時、その時に、必要だと思うことを真剣に取り組んでいたところに、
チャンスが転がりこんで来るような感じです。
そして、そのチャンスを躊躇いなく掴む準備は日々の中で行っており、
飛び込んでみる「覚悟」があったのが、彼をここまで導いていった。
傍から見ると、まさにDarkHorseとして急に現れるような存在です。
帝国ホテル「ライト館」の特徴
日本の建築にも影響を受けていたフランク・ロイド・ライトですが、ライト館にも彼の特徴的な建築様式が表れています。
- 水平ラインを意識したプレイリースタイル
- 勾配の低い屋根
- 連続して設置されている窓
また、ナチュラルな素材を好んだライトは、レンガや石の意匠性にもとてもこだわりを持っていました。
小説の中でも、そのこだわりの強さに翻弄される林愛作や遠藤新、職人たちが描かれています。
色を指定した、すだれレンガ(スクラッチブリック)の開発。
それまで内装には使われてこなかった大谷石を採用し、細かくデザインを指定。
失敗を繰り返しながら、最後には訪れた人々が思わず視線を向ける光の柱が完成しました。
最後にあれこれ
年表だけではわからない、帝国ホテル新館ができるまでの、
関わった人々の奮闘や想い、どういう過程を経てデザインされたのか、がわかる、とても情報量の多い・濃い小説です。
読んでいる間にも、読み終わった後にも、あれこれ調べてみたくなるもの。
実は、ライト館の中央玄関は名古屋村という施設に移設されているので、現代でもその姿を観ることができます。
また、帝国ホテルでは「ライト館開業100周年」を記念した企画展が行われています。
展示場所: 帝国ホテル 東京 本館1階メインロビー内「インペリアル タイムズ」
期 間: 2022年9月1日(木)~2023年9月30日(土)(予定) ※鑑賞無料主な展示内容:
・建材や設計士を中心としたライト館建設に関する展示
帝国ホテルHP より
・幾何学模様の家具や調度品の紹介
・現本館、新本館についての紹介
・ライト館建設に携わったライトと日本人の紹介
・ライト館で生まれ今日まで続く文化的行事の紹介
・当時の「制服」を復刻・写真パネルの展示
・当時の「客室」の一部を再現
本を片手に、じっくり観てみたくなりますね。